1. 親(家族)の物忘れが増えてきた……

「親(家族)の物忘れが増えてきた……。もし銀行口座が動かせなくなったら、介護費用はどうするの?」
そんな不安を抱えていませんか。
私は事務職の経験が長く、家族の話し合いで感情と現実を切り分けて整理する役回りを担ってきました(自分では“貧乏くじ係”だと思っています…笑)。さらに、実際に家族信託を運用している当事者でもあります。
事務手続き自体は苦ではなかったので始めたのですが、運用してみると「制度」と「現場」のズレに何度も出会いました。
この記事では、机上の話ではなく、運用してみて初めてわかった現実を正直にお伝えします。
結論から言うと、「家族信託」と「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」をセットで準備しておくと、親の判断力が落ちても慌てにくくなります。
(※一般に「信託口座」と呼ばれることもあります)
ただし、いざ運用を始めると「え、そこ不便じゃないの?」という落とし穴もありました。
2. なぜ「家族信託」が必要なのか(口座凍結リスク)
親の判断能力が低下し、本人の意思確認が難しい状態になると、銀行は資産保護の観点から取引を停止・制限することがあります(一般に「口座凍結」と呼ばれる状況)。
そして、本人以外が引き出しに行くと、身分証明書や用途を確認されることもあります(経験上、これは普通にあります)。
私の経験談:窓口は“情”ではなく“手続”
新型コロナウイルスがまん延していた頃、祖母が入院→施設入所となり、祖母が通帳を私に預けて「医療費をここから補填して」と頼まれたことがあります。
当時95歳。携帯電話もそつなくこなす“大正生まれのスーパーばあちゃん”でした。
でも、世の中は厳しい。窓口の人は(祖母と孫でも)かなり慎重に確認してきました。
ここで感じたのは、窓口が見ているのは「続柄」より「本人の意思確認が取れるか」という点です。
※診断名や曖昧な言い方をすると、銀行側が慎重になって手続きが止まることがあります。困ったときは、銀行の案内に従って「委任状」「代理人届(銀行所定)」など、正攻法の手続きで進めるのが安全です。
医療費や施設費・生活費などを家族が立て替え続けるのは、長期戦だと本当にきつい。
だからこそ、元気なうちに「支払いを回す仕組み」を作っておく意味があります。
そこで家族信託です。元気なうちに、親(委託者)が「この財産は、子(受託者)が管理して支払ってよい」とルールを決めておく。
この設計ができていると、親の状態が変わっても、生活と支払いが止まりにくくなります。
※なお、信託で管理できるのは「信託に入れた財産」です。信託外の口座や財産は別管理になるので、そこは切り分けが必要です。
3. 【図解】家族信託と信託口口座の違い

混同されがちなので、先に整理します。
| 項目 | 家族信託(仕組み) | 信託口口座(道具) |
|---|---|---|
| 定義 | 財産管理を家族に託す「契約」 | 信託財産を管理する「専用口座」 |
| 目的 | 認知症による資産凍結対策/相続対策 | 受託者個人の金銭と区別して管理する |
| 役割 | 管理・支払いのルールを決める | 実際にお金を出し入れする“箱” |
家族信託=ルール、信託口口座=運用の器。この関係で理解するとスッキリします。
4. 受託者の義務「分別管理」と、信託口口座のメリット
受託者は、信託財産を自分のお金と混ぜて管理してはいけません。これが「分別管理」の考え方です。
(“自分の財布”と“託された財布”をごちゃ混ぜにしない、という話です)
信託口口座を作るメリットは主にこの3つです。
- 信託財産として区別でき、管理の透明性が上がる
親族や第三者へ説明しやすく、記録も残しやすい。 - 受託者個人の資産と切り離して扱える
万が一のトラブル時にも、信託財産が「受託者のお金」と誤解されにくい。 - 会計・税務面でも整理しやすい
出入りが一本化されるので、後から追える(=揉めにくい)。
5. 【ここが重要】実体験:信託口口座の“リアルな使い勝手”
ここからが本題です。制度としては合理的。でも、運用はキレイごとだけでは回りません。
開設のハードル:思ったより手間がかかる
- 公正証書などの書類を求められることが多い
- 対応している銀行が限られる(地域・支店で差が出ることも)
「作れば終わり」ではなく、作るまでがまず一仕事です。
私の場合、伯母の事情で復氏届の提出、複数の通帳や保険の整理、不動産などの確認をしてから動いたので、着手まで含めると約2年かかりました。
書類を作る前にひとまとめにする「心とモノの断捨離」はおすすめです。考えることが減って、スッキリしました。
不便だった点:ネットバンキングが使えないことがある
私が利用した銀行では、信託口口座でネットバンキングが使えませんでした。
つまり、毎月の施設代などの支払いのために、
- ATMへ行く
- 窓口へ行く(営業時間に合わせる)
- 振込手続きが“手作業”になる
……という流れになりがちです。地味ですが、継続運用では効いてきます。
使用する銀行の条件は事前にしっかり確認をおすすめします。難しい用語も多く、正直「????」になります。
窓口担当者の方と信頼関係を積み重ねて、質問し続けるのも大事でした。
工夫している点:「ガソリン代 vs 振込手数料」の現実判断
遠い対応銀行まで行くのに、ガソリン代と時間がかかる。
一方で、振込手数料はもったいない。
このトレードオフを毎月やるのは消耗します。私は状況によっては、振込手数料は“必要経費”として割り切る判断もしています。
「正しさ」より「続けられる運用」。そして、自分の手間と時間はタダではありませんからね。
6. まとめ:家族信託は“作って終わり”ではなく“運用が本番”

家族信託は、契約書を作った瞬間がゴールではない。むしろそこからがスタートです。
信託口口座は分別管理に強い一方で、銀行対応・ネット手続き・移動コストなど、現場では不便も起こります。
だからこそ、自分だけで抱えずに、最初の段階で専門家に「運用まで含めたシミュレーション」をしてもらうのが近道です。
“制度として正しい設計”と“生活で回る設計”は、別物です。
※本記事は筆者の実体験にもとづく一般的な情報です。個別事情により最適解は変わるため、具体的な手続きは専門家へご相談ください。

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